技術解説

16nm周期のナノホールアレイの簡便量産化(東京工業大学資源研)



研究された方々
  • 渡邉 亮子(東京工業大学 資源化学研究所 博士課程(現・独立行政法人 理化学研究所))
  • 伊藤 香織(東京工業大学 資源化学研究所 助教)
  • 彌田 智一(東京工業大学 資源化学研究所 教授)


超微細な周期構造と、量産化を両立する技術

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集積回路や記録媒体がより高密度化するにつれ,シリコン表面上に微細形状を形成する技術は,数十nmレベルでの制御が行われるようになってきています。
今後は,より微細な周期でのパターン作成を行う技術を開発することになりますが,「産業のための量産化技術」であることを視野に入れ,「簡便・短時間に」「大面積を」「低コストで」加工できる技術であることが前提条件になってくると思われます。
そこで,この両方の要求を満たすため,材料を自己組織的に凝集させて微細構造を形成したり,さらにそれによってできた微細構造を「ナノサイズのテンプレート」として加工を行うという研究が進められています。

東京工業大学資源化学研究所の研究グループは,こうした自己組織化によるテンプレートを利用して,世界最小の16nm周期で ナノホールアレイをシリコンウエハ表面に作製することに成功しました。
この技術は,トップダウン的な加工では実現困難な微小構造を得ることができるばかりでなく,高い量産性を持っていることも大きな特徴です。




「つながっているが、交じり合わない2つのポリマー」の相分離と自己組織化構造を利用

今回の研究で使用されているのは,近年,こうしたボトムアップによるナノ加工のための材料として注目を集めている「ブロックコポリマー」と呼ばれる材料です。
これは性質の異なる2つのポリマーを共有結合で繋ぎ合わせた構造をもちます。性質の違いから,これら2つのポリマーは互いに交じり合うことなく相分離を起こしますが,共有結合でつながっているために遠くに離れることができずに,ミクロスコピックな領域で相分離を起こします。
このため,化学的に性質の異なるミクロドメインを形成することが大きな特徴です。

このミクロドメインは,各ポリマーの体積の割合によって,「スフィアー」「シリンダー」「ラメラ」などの層構造をとることが知られており,また周期構造の大きさは,ポリマーの長さにしたがって,数nmから数百nmの長さで制御が可能です。
つまり,ブロックコポリマーは,量産性とナノ周期構造の制御に優れた“ナノテンプレート”であるということができます。




ブロックコポリマーの「イオンを通す」貫通シリンダー構造で、基板の腐食液をマスク
 −数時間で全工程を終了できるプロセスの実現−

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同研究室で開発された「ブロックコポリマー」は,ポリエチレンオキサイド(PEO)と,疎水性で液晶性を示す,アゾベンゼンを付加したポリメタクリレート(PMA(Az))をつなぎ合わせた構造です。
このブロックコポリマーは薄膜にして熱処理すると,PEOは六角形のシリンダー構造をとり,これが薄膜を貫通している状態になります。さらに,このPEOには「イオンを通す」性質があることから,このブロックコポリマーをそのままマスクとして利用し,基板を腐食させる溶液(今回はフッ化アンモニウム水溶液)に浸漬させるだけで,シリコンにPEOの六角形の構造を転写させることが可能となります。

  今回製作されたナノホールアレイは,直径10nm,周期16nmと,ブロックコポリマーを利用して転写した構造の中では,世界で最小の周期構造を実現しています。
また,浸漬時間は約3分程度で,またテンプレートも自己組織化によって簡便に作成できるため,プロセス全体を考えても数時間程度ですべてのプロセスを完了させることができるのも,大きな特徴です。

ホールアレイのサイズは,ブロックコポリマーの長さをかえることによって制御が可能で,これまでに16nm〜40nmの範囲で制御したホールアレイの作成に成功しています。
また材料の見直しなどによって,今後たとえばナノ1桁台の周期構造を作ることも可能です。




今後の課題

今後の課題としては,

  • さまざまな材料表面への転写(そのための基板腐食溶液の適切な選定)
  • さまざまな触媒材料を配列するためのテンプレートとしての応用
  • 作成したホールアレイをテンプレートとした,さらに深いホールアレイの作成

などに取り組む予定とのことです。

(当日配布資料,講演取材などをもとに「学際ネットワーク」設立準備会が記事作成)


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