技術解説

(2009年9月掲載)

廃木材から製造したタール中での廃電子基板の可溶化,
および貴金属・レアメタルの回収(産業技術研究所・千葉大学)



研究された方々
  • 加茂 徹(独立行政法人 産業技術総合研究所)
  • 安田 肇(独立行政法人 産業技術総合研究所)
  • 中込 秀樹(千葉大学工学研究科)


「都市鉱山」の有効活用
 −いかに低コストに,プラスチックの多い小物家電のリサイクルを行うか−

エレクトロニクスに囲まれた現代の生活の中で,電子機器の廃棄量は250万tにも及ぶそうです。これは国民一人当たり約20kgにも及ぶ量が廃棄されていることになります。このうち約40万t〜50万tは法律により回収され,そのうち60〜70%が再資源化されていますが,裏を返せば,それ以外はゴミとして焼却,または埋め立てなどにより捨てられていることになります。

大型の家電に使われる金属やガラスは,比較的リサイクルの進んでいる分野と言われますが,さらなるリサイクル率向上のためには,処理の難しいプラスチック(筐体のプラスチック/基板のエポキシ樹脂)を多く使用した,小物家電のリサイクルをいかに行うかという問題は避けて通ることができません。

特にレアメタルの安定確保が重要になる昨今,「都市鉱山」と称されるほど,使用済み電子機器にはレアメタルが多く含まれ,その回収再利用が望まれますが,携帯電話における金・パラジウムの回収のような収益が見込まれるものを除いては,手間や高い処理コストがその障壁となります。

手間や処理コストなどの経済性も考慮しつつ,基板上の金属・および筐体や基板樹脂までを効率的に回収・リサイクルしていく方法はないのでしょうか?




木質系バイオマス由来のタールにより,ごく自然な環境下で基板のエポキシ樹脂を溶解

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このうち基板上の貴金属の回収・リサイクルについては,(独)産業技術総合研究所および千葉大学工学研究科の研究グループが,木質系バイオマスから抽出したタールによって,電子基板のエポキシ樹脂を溶かし,基板中に含まれている貴金属やレアメタルを回収することに成功しました。

 この方法では,杉などの木質系バイオマスに酸やアルカリを添加し,アルコール溶媒中200℃で約1時間加熱することにより得られるタール状物質が用いられます。

本来エポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂は,立体網目状の化学構造をもっているので,加熱してもほとんど分解することがありません。
そこで,液相での処理,たとえば超臨界水,またはメタノールや特殊な溶媒を使用することで,電子基板のエポキシ樹脂を溶解できることはすでに報告されていますが,超臨界水となると非常に高圧をかけ,また溶媒も非常に特殊なものが必要になるために,コスト高が課題となると考えられます。

しかしこの方法では,エポキシ基板をこのタール中にて,大気圧下・250℃〜300℃というごく自然な条件下で処理することで,エポキシ樹脂が完全に溶け,基板上の電子部品を回収することができます。環境条件を整える装置や溶媒に特別なものを必要としないため,運転費用など非常に低コストに回収を行うことが可能となります。




エポキシ樹脂の溶解メカニズムと今後の展開

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では,なぜバイオマス由来のタールで,エポキシ樹脂が溶けるのでしょうか?
これは,純粋なエポキシ樹脂では溶解が困難なのですが,電子基板に使われるものには架橋材として,特殊な溶媒中で溶解する弱い結合(エステル結合)が含まれています。これを特殊な溶媒や高温高圧下の水・あるいはメタノール中で溶解できることは,すでに研究発表などによって知られています。
今回の研究で用いたような,木質系バイオマスから得られるタール状物質には,原料の化学構造に由来する高沸点のアルコール化合物が多く含まれているため,タールが重質なアルコール溶媒として働き,エポキシ基板を溶かしたものと考えられます。

また,この研究ではバイオマスをただ燃料として使用するのではなく,低品位ではありますが,一度エポキシ溶解用の化学原材料として用いる点も特徴です。エポキシ樹脂の溶解したタール中から湿式法にて非鉄金属などを回収後,これを再度化学原材料,あるいはエネルギーとして利用していくため,バイオマス資源も繰り返し有効利用することができます。

この研究は,電子基板への応用のみならず,FRP,ウレタン,ポリカーボネート,PETの処理への応用までを視野に入れた研究が進んでおり,今後が期待されます。

(当日配布資料,講演取材などをもとに「学際ネットワーク」設立準備会が記事作成)



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