技術解説

加湿装置が不要な燃料電池用高分子膜を開発(横浜国立大学)



研究された方々
  • 安田 友洋(横浜国立大学)
  • 李 承烈(横浜国立大学)
  • 中村 真一郎(横浜国立大学)
  • 渡邉 正義(横浜国立大学)


これまでの燃料電池用高分子膜には、加湿が必要
 −これさえなければ、非常に大きなメリットが・・・。−

環境保護の観点から研究が行われている燃料電池は、言うまでもなく「排出物が水だけという理想的なエネルギー源です。すでに日本では世界に先駆けて家庭用燃料電池が発売され、自動車などへの応用も期待されています。
この中でも特に注目を集めているのが固体高分子型の燃料電池です。この燃料電池の発電原理は、プロトンを動かす高分子膜の中で、「プロトンを、アノードからカソードに運ぶ」ことで発電が行われるため、固体高分子膜が非常に重要な役割を果たしています。また電極には、反応ガスから電気を取り出すための触媒として、白金が含まれています。

現在もっとも有力な固体高分子膜として、パーフルオロ系のスルホン酸膜が主流となっていますが、実はこの膜がプロトン伝導性を示すのは、「水が充分に供給されていて、水に某潤している場合」だけ。つまり乾燥状態ではプロトン伝導性がなく、そのため充分に加湿されていないと発電が行われない、という問題があります。
「充分に水分補給されていないと、発電しない」ということが何を意味するかというと、それは以下の通りです。

  1. 製品の中に、供給する水分を貯めておくタンクと、水分を供給する装置が必要になる。
  2. 加湿する水分の蒸発を防ぐため、反応温度を、水の沸点以下、だいたい80℃くらいに抑えなければならない。そのため触媒活性の悪い低温での運転を余儀なくされるので、反応触媒である白金の使用量が増えざるをえない。

特に自動車などでは、搭載スペースに制限があるため、@のような設備を搭載することは好ましくありません。また、2桁近い大幅なコスト削減が実用化に向けての絶対条件と言われており、現在1台につき100gも使用されている白金の使用量は、なんとしても減らしたいところです。逆にもし加湿する必要がなくて、運転温度を100℃以上にあげることができれば、非常に大きなメリットがあるといえるのです。




燃料電池として使うための「プロトン性イオン液体」による材料の開発

contents

そこで、横浜国立大学の研究グループは、加湿をしなくても発電し、非常に広い温度領域で発電が可能な燃料電池材料、およびそれを利用した高分子膜の試作に成功しました。
同研究室はこの材料として、「イオン液体」を使用しました。「イオン液体」は,プラスとマイナスのイオンのみからなる“塩(えん)”の一種であるにもかかわらず、室温で液体であるという物質。広い温度域で液体状態を保ち、イオンを通すという性質からリチウムイオン電池、太陽電池の電解質などへの利用研究が進んでいるものです。

従来主に研究されてきたイオン液体は,反応活性がプロトンを含まない「非プロトン性イオン液体」と呼ばれるものですが、今回はプロトン伝導体への利用が目的であることから、プロトンを含む「プロトン性イオン液体」を利用しています。同研究室では,プロトン性イオン液体が、水がなくても白金を触媒として反応ガスから電気を取り出せることを見出していました。さまざまな組み合わせの結果、燃料電池に適した性質である、以下のような性質を得ることができました。

  • 融点が0℃以下(−6℃)。
  • 熱分解温度が360℃。
  • プロトン伝導率に相関するイオン伝道度が非常に高い。
  • 燃料電池として組んだときの開放起電力もほとんど理論に一致する。



得られたイオン液体を高分子膜に

燃料電池に利用しやすくするためには,液状のこの材料を高分子膜にする必要があります。そこで、ポリイミド(耐熱性エンプラ)にイオン液体装用性を導入する研究が行われました。

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ポリイミドの骨格の中に、イオン液体と親和性の高い部位を付加したスルホン酸を導入したところ、イオン基部分と非イオン基部分に相分離してイオンチャネルを作り、そのイオンチャネルの部分にイオン液体を安定に担持できることが分かりました。
このスルホン酸化ポリイミドとイオン液体を共通溶媒に溶かして膜を作ると、高分子に対して重量で最大4倍量のイオン液体を含ませても、黄色透明で柔軟かつ強靭な膜を作ることができます。

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この膜を評価したところ、120℃、加湿なしの状態で燃料電池として発電ができ、200mAの電力を得ることができました。これは従来のパーフルオロ系のスルホン酸膜には及びませんが、ダイレクトメタノール型燃料電池に匹敵するレベルにまでなってきたということができます。
今後は電極触媒層の最適化を図ることで、さらに特性を向上させることを目標としています。

(当日配布資料,講演取材などをもとに「学際ネットワーク」設立準備会が記事作成)



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